ハルコ

「ただいま」

私は玄関でパンプスを脱ぎ、レースのフットカバーを剥して洗濯機に放った。ほろほろと私の体の形が崩れて、やがて半透明で水色の、ゼリーのような物体に形を変えた。

「おかえり!」

部屋の奥からハルコが私を迎えた。ハルコは床に散らばった私をひとつずつ拾って、全部集めると、シャワーで丁寧に洗ってくれた。

 

ハルコは私が思うに完璧な女の子だった。しかし、ハルコは自我と言えるようなものを持っていなかった。正しくは、私とハルコで自我を共有していた。基本的には私が自我を持っていて、外界に触れることで存在を保っていた。

 

シャワーを終えた私に、ハルコはラベンダーの香りのクリームを丁寧に塗った。ひんやりした感触が体を包んだ。ハルコはすべての私を抱えて、ベッドへ連れて行った。私がベッドで微睡んでいる間、ハルコは洗濯物をほしていた。柔軟剤の香りが、部屋をひとつのシャボン玉の中に閉じ込めるように包んだ。

 

やがてハルコも同じベッドに入った。ハルコのつややかな髪が私の体を滑り、すべすべした肌は冷房で少しひんやりしていた。私はその感覚を受け取ると、意識が遠のくように眠った。

 

ハルコは突然私を殺すことがあった。それは何の前触れもなく起こることで、ハルコや私の感情に左右されるものではない。何か要因があるとすれば、外界における、私たちが作り上げるべき存在である。存在を保ち続けるために、私が殺され、代わりにハルコが外界に存在しに行くことがあった。

 

アラームが鳴った。ハルコは決まって私より10分早く起きて、私を起こしてくれた。朝食には必ずヨーグルトとコーヒーがあり、ハルコは私と同じタイミングでヨーグルトをすくい取っては食べ、コーヒーを飲んだ。このときだけは、私とハルコが自我を共有し、同一の存在を維持していることを実感できた。

 

朝ご飯が終わると、ハルコは私を洗面台に連れていき、顔を洗ってくれた。そして服を着せて、化粧をしてくれた。ハルコは丁寧に、ゼリー状の物体を人間の形に仕立て上げた。それはまるで女性だったし、ハルコが塑像するそれは次第に洗練されていった。

「行ってきます」

「気をつけてね!」

そうして、今日もハルコを置いて家を出た。